WOCIT HP J-Iraq-Statement-070125
25 January 2007

イラク情勢にかんする世界市民法廷会長の声明

                  2006年1月25日
                              会長 金子 利喜男

年頭にあたり、世界市民法廷(WOCIT)にとりまして、イラク問題をさけて通ることができません。わが法廷は、すでに2004年5月26日、イラク戦争開始のほぼ1年後、国連事務総長、世界各国首脳および諸国の国会議員にたいし「イラク紛争にかんする提案」を行いました。それは、とりわけ、以下のことを要請しました。

        1)国連、すべての国家、すべての人民は、イラク人民の自決権を尊重すること(国連憲章第1条参照)
   2)すべての交戦当事者は、全般的休戦に合意し、武器使用をただちに停止すること
   3)国連とイラクの利害関係諸国は、外国軍の中立化の方法にかんする計画を提示すること
   4)
イラクを侵攻した非中立的な外国軍隊は、その部隊をイラクから撤兵すること
   5)国連、すべての国家および国会議員は、法の支配を樹立するため努力すること
            
                      (詳しくは:http://www.wocit.org/J-IRAQ-Proposal.htm

 WOCIT暫定裁判所に、現在イラク戦争について2つの事件が係属中であり、いずれ裁判所が最終的な法的判断をくだすでしょうが、WOCIT 会長としては、上記の提案を再度強調しつつ、イラク戦争や内乱だけでなく、地球社会の進むべき方向についても、年頭の私の立場を簡潔に表明したいと思います。
 イラクでの報復はさらなる報復をよび、イラク侵攻の当事国による派兵はさらに犠牲者をまし、根本的な解決に役立たないどころか、いっそう情勢を悪化させる可能性がありますので、そうでなく、まず交戦当事者や関係者は好戦的な言動をひかえ、できるだけ早くテーブルに戻って、平和的に事態を解決するよう心より切望いたします。
 フセイン元大統領は、人道にたいする罪で、昨年12月30日に処刑されました。この種の罪は、国際法上すでに一定の概念を有するものであり、同罪が黙過されていいはずがありません。しかし他方、イラク侵攻が侵略か否かは、国家間のいかなる裁判所でも審理されておりません。これは、勝者側の基盤だけから生まれた裁判であり、侵攻国の侵略性は裁判されず、軍事的敗者の行為のみ裁かれたという面で公正でないといわざるをえません。
 同時にイラク戦争の例は、それにまさる大問題を宿していることにも注意する必要があるでしょう。

 第1は、人類の英知が営々として築いてきた戦争禁止原則の金字塔が軽視されたことであり、こんご武力不行使原則への再帰が強く求められているということです。国際紛争は、平和的に解決されなければならず(憲章第33条)、武力を行使できるのは、国連の許可がある場合(第42、第53条)と自衛権の場合(第51条)だけであります。
 米国は、イラクの核兵器秘匿を戦争の大義名分としましたが、最初にイラクが攻撃したのではないから、米国は自衛権は援用できません。では、国連からの許可は? アメリカは国連の許可をえたかったが、軍事的制裁の同国提案が安保理で採択されないことをみとって、じっさいは国連の明確な許可をえずしてイラク侵攻を強行しました。
 武力行使の正当性は、国連の許可がある場合と自衛権の場合だけであり、それは民族、宗教、文明などについての自己の主観的な価値判断によらないでしょう。ここにこそ、イラク侵攻と駐留軍への陰陽の根源的な懸念や反発が由来しています。それに加え、戦争の大義名分となった核兵器がイラクに存在しなかったこともあって、いたるところで外国軍の駐留の正当性に疑問がなげかけられてきました。あれこれの反発が、諸国に持続的かつ広範にみられる情況下で派兵は長続きせず、いたずらに人命をうしない、多くの遺族や友人は涙を流すでしょう。
 第2次世界大戦の悲惨を経験した先人は、一般的に戦争を禁止しただけではありません。戦争の概念より広い「武力」や「武力による威嚇」さえつつしまなければならない、としたのです。国連憲章をみましょう。

      すべての加盟国は、その国際関係において、武力よる威嚇又は武力の行使を、いかなる国の
     
領土保全又は政治的独立に対するものも、また国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法
     
によるものも慎まなければならない。(第2条4項)

 平和な世界を維持し、発展させるためには、諸民族が相互に尊重しあって、国家間の関係でも、人類の英知の発展をしめす武力不行使と武力による威嚇禁止の原則を遵守する必要があります。

 
 
第2に、21世紀においては、力や戦争による支配でなく、
法による支配が樹立されなければならないということです。なぜ世界に生起する重大な違法行為が不問いにされ、あるいは領土問題のように、法的な権利義務について半世紀以上も水掛け論をつづけるのでしょうか。それは、現段階の国際社会においては、そのような問題について、強制的裁判権を有する国際裁判所が存在せず、これらの国際裁判所は、原則として、両紛争当事国が裁判権に合意したときのみ、その紛争にたいする管轄権を有している、とみられているからであります。
 国連の国際司法裁判所にしても、同裁の裁判権を承認すると事前に宣言している国は、驚くべきことに全世界の国家の3分の1ほどで、しかもこれらの諸国はさまざま条件をつけています。このような法の支配の軽視こそ、無法状態を惹起する原因であり、たとえば、わが世界市民法廷が、普遍的管轄権を有する全人類的な世界法廷の創建を目標とし、その発展に努力しているのも、そのような過去の弊害を是正せんと決意したからであります。

 
第3は、
核兵器をふくむ国家軍備の撤廃。とくに核兵器撤廃は、21世紀の地球社会にとって、焦眉の急務であり、核兵器の拡散は阻止しなければなりません。しかし、他方において、核兵器国が人類を数十倍も反復殺戮し、人類のみならず自然の生態系や環境を想像を絶するほど壊滅するほど不必要な核兵器を現実に保有しつづけ、その絶対的不使用を宣言しないどころか、場合によっては、その使用をちらつかせていることが、核拡散の根源的な背景と原因でありであり、より重大で恐るべき問題を宿しています。
 核兵器は、海賊同様、全人類の不倶戴天の敵みたいなものです。私の赤裸々な良心にしたがえば、核保有国の他国にたいする核開発の中止要求が説得性をおびるのは、まず核兵器国がみずから襟をただし、核兵器全廃を断行したときのみであります。現行の核兵器不拡散条約をみましょう。それは下記のようにさだめております。

   
  各締約国は、核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、
    並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約
    について、誠実に交渉を行うことを約束する。(第b第6条。「軍備縮小」は、「軍備撤廃」との訳が適訳。)

 地球社会で、軍拡が人類の目標であっていいわけはありません。目標は、国家軍備の全面完全撤廃、すなわち、核兵器のみならず、あらゆる通常兵器におよぶ全面的なもの、そしてゼロまでの完全で徹底的な廃棄です。

  第4は、全面完全軍備撤廃に関連するテーマ、すなわち
世界連邦の研究と実際的な手続きについてであります。世界連邦は、一言でいえば、分権化された世界的統一国家であり、そのとき現存の主権国家は、大規模な地方自治体に似たものに変化しているから、原則として、その連邦構成体どうしの戦争はありません。世界連邦時代には、国際法でなく世界法が生成発展し、いわば世界連邦議会、世界連邦政府、世界連邦裁判所が存在するでしょう。
 世界連邦は、まず平和主義と基本的人権の尊重、それに民主主義にもとづかなければならず、弱肉強食的な生存競争に代わって、互恵的かつ平和的な善隣関係が支配すべきであります。
 2006年8月2日、日本の衆議院本会議は、国際平和構築への貢献を誓約する決議を採択し、同決議のなかに「世界連邦実現への道の研究」の文言をいれました。世界連邦は、とりわけ大学や外務省、世界連邦推進諸団体で研究し、その成果は
学校教育にも組み入れて、全人類のための世界連邦の芽を育んでいくべきでしょう。

                     む す び に
 
WOCIT会長として、冒頭の4点に注意を喚起しつつ、私は本声明で以下の要点8項目を表明いたします。
1)イラクへの侵攻軍は撤退し、外国軍が必要なら、国連主導の中立的な平和維持部隊が駐留すべきである。
2)軍事的な勝者側が敗者のみを裁くことは、不正かつ原始的であり、著しく21世紀の文明の要請に反する。
)世界のすべての国家は国際刑事裁判所条約に批准し、とくに同裁で国際犯罪の公正な処罰を確保すること。
4)イラク人は、次の選挙の際は、選挙権と被選挙権を公平に享有し、人を政治的立場で差別してならない。
)すべての国家は、国際連合の国際司法裁判所の裁判権を承認すること。条件つきの承認をしないこと。
)国連軍創設のため、国連加盟国は、各国の憲法にそい、その兵力を安保理に利用させること。(憲章第43条)
諸国は、まず全面完全軍備撤廃条約案の作成に協力し(核不拡散条約第6条)、その後それに批准すること。
8)諸国は、世界連邦の研究と世界連邦条約案の作成に協力し、その成果を教育に組み入れること。
 本声明の内容も、英訳後WOCIT総会の審議をえて、国際連合および世界各国の首脳に送付いたします。